ディレクター南貴之が一音楽ファンとして敬愛する、DJ/ミュージシャン「SILENT POETS(サイレントポエッツ)」こと下田法晴。彼の手がけるオリジナルブランド「POET MEETS DUBWISE」とGraphpaperのコラボレーションのきっかけから、デザイン、音楽制作にまつわる話題まで。
ーー下田さんが自身のブランド「POET MEETS DUBWISE」をスタートしたきっかけは?
下田法晴(以下、下田):下北沢の「JAZZY SPORT」というレコード屋さんからSILENT POETSのTシャツを作りませんかとオファーをいただいて、その時に「POET MEETS DUBWISE」という3行の文字が入ったデザインを作ったんです。それがきっかけとなって、SILENT POETSのイメージを音楽以外で表現するということと、もう一つは音楽制作の資金元になるならということで、もうちょっといろんなものをやってみようかと思い、始めました。
南貴之(以下、南):どちらかというと音楽のための資金作りというのがメインなんですね、何か作ったりするのも音楽が第一にあるというか。
下田:そもそも音楽がないと、これもできないですし、レコード会社にも属さず完全に自主制作なので資金が必要というのもあって、何かを作ってそれが出回っていけば、いいのかなと思っています。
南:僕らがたくさん売れば売るほど、音楽制作が進むわけですね(笑)。
下田:そうですね(笑)。
南:自分の中でグラフィックデザインをする上で、何か決めごとはありますか?
下田:基本的にはやっぱりシンプルで無駄がないんだけど、どこか深みがあるデザインが好きなので、できるだけそっちに寄せています。
南:好きなフォントとかは?
下田:Helvetica(ヘルベチカ)やFutura(フーツラ)といったすごくベーシックなフォント以外はあまり使わないです。本当に自分が決めたものをいくつか使い分けていて、ちょっと凝ったもの、派手なものはほとんど使わない。ベーシックな感じで空間や間といったものを大事にしたデザインが好きだし、得意なのかなと。
南:確かになんか音楽性と通じるものがありますよね。この音楽にしてこの感じというか。
ーーこれまでイッセイミヤケやビームスなどファッションブランドや企業といろいろな仕事をされていると思いますが、下田さん的にファッションと音楽との結びつきという部分で意識していることはありますか?
下田:イッセイミヤケもビームスも20年前ぐらいですけど、やっぱりファッションのブランドイメージが強いところと一緒にやるときは、あちらの土俵だけど、その中で自分らしいものを作るっていうことですかね。
南:最近は洋服のブランドとのコラボレーションというのはないんですか?
下田:ないですね。 SOPH.は立ち上げのときから、F.C.R.B.(F.C.Real Britol)とSOPH.はグラフィックを10年ぐらい担当してましたが、それ以降は、アディダスとちょっとやって、ここ何年かはアパレルはなかったかな。
POET MEETS DUBWISE for Graphpaper (2020年5月23日発売 コラボレーション第1弾)
南:では僕らは結構久しぶりのコラボなんですね。
下田:そうですね。「POET MEETS DUBWISE」を始めたというのもあって。ロゴをちょっと作るぐらいはありましたが、ここ数年はあまりファッションと密に関わってきませんでした。
南:ぶっちゃけGraphpaperからのオファーはどうでしたか?
下田:こういう世界に実はちょっと疎いので、最初に展示会にいらっしゃったときは、ちょっとわからなかったのですが、その後、知ってすごい嬉しかったです。
南:僕もLittle Napにコーヒーを飲みに来ていて、たまたま外で案内を見つけて、スタッフの子に下田さんってブランドやってんの?って聞いたら、ちょうど上で展示会やってますよって言うから、ちょっと入れてもらえないかな、俺ファンなんだよねみたいな、そんな流れからのスタートでしたから。
下田:あそこで(展示会を)やっててよかった。
南:まさか、展示会って書いてあるから、何を展示してるんだと思って。そしたら洋服みたいですっていう話で、なら見たいとなったのが始まりで、Little Napに行ってなかったら会えてなかった。僕の周りに下田さんとの共通の知り合いは結構いるのに、なぜ誰も教えてくれない、気づけよ、SILENT POETS好きに決まってんだろうと。
下田:それがきっかけで、コラボレーションできたというのは嬉しい限りです。やっぱりうちで作ってるTシャツとは全然質が違うし、素晴らしいですね。
POET MEETS DUBWISE for Graphpaper (2020年5月23日発売 コラボレーション第1弾)
POET MEETS DUBWISE for Graphpaper (2020年5月23日発売 コラボレーション第1弾)
ーー話題に上がりましたが、コラボレーションの経緯は南さんからのオファーがきっかけだったんですね。
南:もうファンだからね。もしかすると、できたりするのかな?できちゃったりするんですか? みたいなことで、一応、聞いてもらったらOKが出たので、僕的には爆上がりでした。僕は、当時、普通に下田さんの音楽を家で聞いていた人なんで。だから、SILENT POETSかっこいいみたいな。音楽好きだし、それで知っていたから、まさかこの歳で夢が叶うとは。
南:そもそもあの音楽性の始まりは?
下田:元々大学のときにバンドに誘われて、高校時代に1年ぐらいドラムをやったことがあって、しかもパンクのバンドなんですけど。それだけなのにドラム経験が何か独り歩きして、あいつドラムできるらしいよ的な。それで入ったバンドがあって、もう一つレゲエのバンドをやりたくて自分で作ったんです。そのレゲエバンドが母体となって、今のLITTLE TEMPO(リトルテンポ)とSILENT POETSに別れていった。レゲエバンドでしたが、僕はもうちょっと打ち込みとかダブみたいなことをやってみたくて、SILENT POETSになっていきました。
南:なるほど、そういう別れ方をしていたんですね。ところで、当時、影響を受けた音楽とかあるんですか。
下田:最初は、MUTE BEAT(ミュートビート)みたいなバンドをやりたくて始めたんですけど、そこからヒップポップや他の音楽も好きだったんで、その次に出てきたMASSIVE ATTACK(マッシヴアタック)がしっくりきて。そこはかなり影響を受けましたね。
南:そういう流れなんですね、なんか普通にただのファンみたいな質問しちゃいましたけど。ちなみに音楽を作るとき、何か使ってる機材や機械はあるんですか。
下田:普通にパソコンでほとんどのことをやって、ベーシックを作って、そこからパートによって、例えば生でピアノとか弦を入れたり、スタジオでボーカル入れて録音して。元になるのは全部パソコンで部屋で作ってます。特別な機材も最初の頃はいろいろ持ってたんですけど、なんかどんどんいらなくなってきました。
南:削いで削いで、さらにミニマルに。
下田:部屋で作って、スタジオに行って。自分の中では家で作った時点でもうほとんどできているので、あとは差し替えるだけ。
POET MEETS DUBWISE for Graphpaper“SUN”(2020年11月7日発売 コラボレーション第2弾)
POET MEETS DUBWISE for Graphpaper“SUN”(2020年11月7日発売 コラボレーション第2弾)
ーーところで、2020年からのコラボTシャツのデザインについて教えてください。
下田:第2弾のデザインは、僕がブランドを立ち上げた一番最初のコレクションでやったPHOTOプリントTシャツなんです。SILENT POETSのジャケットの写真を撮ってくれてた内田将二の写真シリーズ的なものをやろうと思って。2005年に出したアルバム『SUN』のジャケットの写真で、内田君が90年代にインドに行って撮った中から僕が選ばせてもらったものです。
南:このアルバムなんて、ドンズバに持ってたという感じなので、まさかこれが来るとはと思いました。
ーー「POET MEETS DUBWISE」というブランドとしてやられているデザインと、音楽のアルバムジャケットのアートワークとでは、別の考え方なんでしょうか?
下田:ジャケットは音楽のためにやるグラフィックで、その延長なので同じような考え方ですが、音楽から派生したものという感じですね。
南:アルバムのジャケットとか、音楽のビジュアルって重要じゃないですか。なんかよくわかんないレコードの山の中から探すときって、割とジャケで選んだりするときもあって、なんか最悪のときもあるんですけど、やっぱりすごいビジュアルが大事な気がするんですが、そこは意識されてるんですよね。
POET MEETS DUBWISE for Graphpaper“WORDS AND SILENCE”(2021年4月17日発売)
POET MEETS DUBWISE for Graphpaper“WORDS AND SILENCE”(2021年4月17日発売)
下田:10代の頃からレコードを掘ってるけど、その当時は今みたいに試聴もできなかったから、ジャケットのイメージとか、タイトルやプロデューサーの名前とか、それぐらいしか情報がなかったので、ビジュアルがめちゃくちゃ大事だっていうのは、今でも変わらずそうですよね。それも作品の一部なので。それに音楽を作っていて、ジャケットデザインもやってる人はあまりいないけど、僕はできるので思う存分、自分の好きなものを作れるという喜びもあります。
南:だから僕もそこが特別だと思うんですよ。だいたいは音楽を作る人と別の人がデザインやビジュアルのディレクションをしてるから。最初からそういうふうにこだわっていたんですか?
下田:そうですね。たまたま自分でやれたので最初から人に頼むということがなく、とりあえず自分でやっちゃうか、から始まって、それも含めて一つのトータル作品ということで出来上がりました。でも『SUN』は2005年の作品ですし、今、世の中どんどん新しいこと新しいものが出てきている中で、こんな古いアルバムをこうやって取り上げていただいて、ありがとうございます。
南:うち的には、2005年は全然古くないです。1930年代ぐらいのヴィンテージなども置いてますので、大丈夫です。
ーー今後の「POET MEETS DUBWISE」とGraphpaperの新たな展開は?
南:Tシャツはもうやっているので、次は帽子とかもやってみたいと思っています。あと僕、下田さんのグラフィックですごい好きなのがあって、漢字の「沈黙詩人」って書いてあるデザイン。あれが衝撃的なかっこよさだったんですよね。日本語や漢字って、なかなかかっこよくできないと思っていたんですが、あのキャップはめちゃくちゃかっこいいから、僕も好きでよくかぶってます。ああいうのとか、やっぱりすごくいいなあと思って。
KIJIMA TAKAYUKI×POET MEETS DUBWISE for Graphpaper Selvage Wool 6 Panel Cap (2021年4月17日発売)
ーーグラフペーパーを漢字にしてもらうとか?
南:方眼用紙ってヤバイね(笑)。実際かっこいいかもしれない。ちょっとやってみてもらっていいですか? シャレでこんなのできましたけどみたいな。
下田:悪くなさそうですね。面白いかもしれない。
南:めちゃくちゃ面白い。というか、多分Graphpaperというブランド始まって以来の感じです。一番なかった要素です。
下田:イメージ的に大丈夫ですか?
南:大丈夫です、あのグラフィックはすごくかっこいいから。漢字だけど、別に昭和的なノスタルジーもなく、本当に洗練されているので。
KIJIMA TAKAYUKI×POET MEETS DUBWISE for Graphpaper Selvage Wool 6 Panel Cap (2021年4月17日発売)
下田:文字の内容にもよるかもしれませんが、方眼用紙もいけるような気がしてきました。
南:じゃあ、ちょっとそっちの展開もお願いしていいですか? それを4月にリリースして、その後、第二、第三とやっていきましょう。よろしくお願いします。
両者のそんな会話をきっかけに、さらに「KIJIMA TAKAYUKI」も加わった三者コラボレーションのキャップ「KIJIMA TAKAYUKI×POET MEETS DUBWISE for Graphpaper」が完成しました。ぜひ店頭にてご覧ください。(ONLINE販売は4月19日(月)からとなります)
POET MEETS DUBWISE
http://poetmeetsdubwise.com/
1990 年代からDJ/ ミュージシャンとして活動してきたSILENT POETS こと下田法晴によるオリジナルブランドで、グラフィックデザイナーとしてのキャリアも長きにわたり、音楽とデザイン、そしてカルチャーが常に隣り合わせにある下田のキャリアそのものが表されたプロジェクトでもある。機能美や着心地を必要最小限にとどめたベーシックなアイテムには、SILENT POETS から連想されるキーワードや曲名をタイポグラフィとしてデザイン。
言葉の造形としての美しさと余白を意識したシンプルながら深度のあるプロダクト、その一つひとつに下田が一貫としてきた「自身の作品は音楽からアートワークまでを含めたトータルワーク」というスタンスが落とし込まれている。
SILENT POETS https://www.silentpoets.net/