現代の都市生活に必要な機能とデザインを擁する “退屈じゃない普通”の服、〈グラフペーパー〉。
その2024年春夏コレクションは、南貴之の新たな挑戦に満ちていた。
飽くなき黒の探求。
ー2024年春夏の〈グラフペーパー〉はどんなコレクションでしょうか。
南:今回は、”墨 - Sumi - ”をテーマにしたコレクションです。最初は、黒のコレクションを作ろうと思って制作に取りかかりました。黒い服を作るために、まずは「黒とは何か?」と考えるところから出発して。「黒」という色を掘っていくと、いろいろな種類の黒があるということを、改めて意識したんです。生地の場合だったら、ベンガラで染めてから黒く染めると赤っぽい黒になるし、藍で染めてから黒に染めると、青っぽい黒になる。「黒」とひとことにいっても、種類は膨大なんですよね。アンミカじゃないけど(笑)。
ー確かにアイテムごとに黒のニュアンスが異なっていますね。
南:その後は、「黒くする」手法について、かなり広範囲にリサーチしました。染色だけでなく、コーティングだったり、織りだったり。機屋さんに行って、染工所に行って、手書きの職人さんに会って、徹底的に調べました。そんな中で辿り着いたのが墨だったんです。陰影というか、黒の濃さのグラデーションというか。黒一色だけど濃淡のある水墨画や書の作品ような、そんなコレクションのイメージが自分の中に浮かんできました。黒のバリエーションが豊富なのは、黒をいろいろなアプローチで表現した結果です。
ー手法について、アイテムを例にしてご説明いただけますか。
南:コットンタイプライターのジャケットとトラウザーズは、本当の真っ黒とはどんなものなのか、を突き詰めて完成したアイテムです。大正4年から黒染め一筋という老舗、『京都紋付』で染めてもらいました。彼らがいうには、真っ黒とは、闇だと。要は光がなければ黒、光を感じてしまったら黒ではないというんです。深黒加工という光を乱反射させることで目に入る光を減らし、黒いと錯覚する特殊な加工を施すことでこの深い黒を表現しているそうです。
ー他のアイテムと比べてひと際黒いですね。
JACKET Garment Dyed Typewriter Jacket ¥58,300
PANTS Garment Dyed Typewriter Slacks ¥41,900
南:セットアップで着られるジャケットとトラウザーズは、キュプラとリネンを混紡した生地のモデルもあります。こちらは、キュプラとリネンの染まり具合に差が出ることにより独特な色味と風合いに仕上がっています。単一素材を墨黒に染めれば簡単なんですが、色としても手法としてもチャレンジしてみたくって。最終的にはイメージしていた墨黒にうまく着地しました。
リネンのチュラルな表情を残しつつ、キュプラのソフトで落ち感のある風合いが特徴。異素材の染色差により独特な墨黒を表現したジャケットとトラックパンツ。
JACKET Linen Cupro Double Jacket ¥74,800
PANTS Linen Cupro Track Pants ¥37,400
ーデニムもユニークな色合いですね。
南:米綿にヘンプをブレンドしたライトオンスのデニムなんですが、インディゴ染料に墨を混ぜてコーティングすることで、深くて青みのある黒を表現してみました。ノーカラージャケットは、折り返した縁から裏地の白を覗かせることで、軽やかな印象に仕上げています。
インディゴ染料に墨を混ぜてコーティングした深く青みのある黒が特徴のジャケット。同素材のショーツとタックトラウザーズも展開。
JACKET SUMI Coated Denim Collarless Jacket ¥52,800
南:これまでの〈グラフペーパー〉は、クールな感じの黒に仕上げることが多かったんですが、今回は多角的な表現ができたと思います。
ーいろいろな黒を組み合わせてコーディネートしても面白そうですね。
南:僕は面倒くさがりだから、上下同じ生地で合わせちゃうけど、それも面白いかもしれませんね。
スニーカーの一部やウィメンズアイテムに採用された赤は、書の作品に捺される朱色の落款印をイメージしたもの。
計画的な偶発性。
南:色については、これまでお話しした通りなんですが、今回のコレクションには、もうひとつ重要なキーワードがあります。それが“偶発性”。僕は2021年から『白紙』というギャラリーを運営していることもあって、日常的にたくさんの作家に会うようになりました。気になったのは、みんな作品づくりの際に偶発的な部分と付き合っているということ。例えば陶芸家は窯で焼成する際、仕上がりを100%はコントロールしきれない。その偶発的な部分に悩んでいたり、面白がっていたりするんです。コントロールしようとしたり、わざとコントロールしなかったり、そうやって自分の作品を作っているのを見てきました。
ーコントロールしないことで新しいなにかを見出す作家もいるんですね。
南:自分の洋服の作り方はどうかというと、典型的なA型といいますか、ちょっとずれているのも許せなくって、狙い通りに綺麗にビシっと作られていないと嫌だったんです。でも、作家と会って、いろいろなものづくりの考え方に触れている中で、想像を超えるような自分でコントロールできないことに興味が湧いてきて。いつかやってみようと思っていたんですが、それをようやく実現したのが今シーズンなんです。
ー作家たちとの交流で考え方が変わったんですね。洋服づくりでは糸や織り、縫い方や加工など、仕様を細かく指示すると思うのですが、どのように偶発的な要素を取り入れたのでしょうか。
南:洋服でやってはいけないということをやれば、偶発性につながるのかなと思って。洗ってはいけない生地を洗ったり、染めてはいけない生地を染めたり、あとは、破いたり、熱を加えてみたりとか。
ーアヴァンギャルドですね(笑)
南:ぐしゃぐしゃになっちゃってもいいし、縮んで半分になってもいいから、とにかくトライしてみよう! って指示を出して。まぁ、一番苦労してるのは生産チームだと思いますけど、彼らとしてもすごく面白かったみたいです。
ー実際にやってみて、製品化が難しいほどの失敗はありましたか?
南:意外にも、ほぼすべてうまく仕上がりました。ウールギャバジンのコートとジャケットは裏地を縫い付けず、裁ち切ることで表側に見せる仕様にしています。その後に縮絨加工という蒸気と圧力で生地を収縮させたり、シワを出す加工して裁ち切った部分をほつれさせているのですが、計算しておおよその長さを指定したら、すごくダサい感じになってしまって。よりアバウトな指示で、さらにコントロールしずらい金ブラシで加工をしたらいい感じになりました。
袖口と裾から裏地を覗かせるコート。80年代によく見られたワッシャー仕上げのウールギャバジン。糸の密度を甘くすることでシワ感と空気を含んだ軽い風合い、油抜けしたドライタッチが特徴。
COAT Wool Twill Washer Bal Collar Coat ¥121,000
ーこれまでのクリーンなイメージから大きく変化したシーズンなんですね。
南:実はこれまでも、一型だけやってみたり、なんていうことはあったのですが、中途半端だったのかなと。自分があまりやってこなかったことに改めてトライしたコレクションですね。ただ、ここまでに説明してきたような服と対局にあるような、完全にコントロールされた、テックなマテリアルの服が一緒に並んでいることに意味があって、それらを組み合わせたのが僕らのコレクションなんです。
Graphpaper 2024 Spring & Summer Collection
~ Installation by Daichiro Shinjo ~
本文でも触れた、Graphpaper 2024 Spring / Summer Collection のテーマ”墨-Sumi-”を表現したインスタレーションを2月23日(金) より開催します。
このインスタレーションでは、幅広いコレクションの中からテーマを色濃く反映した服のみをピックアップし、黒をリサーチする過程で出会い、このコレクションを作るインスピレーションの源となったアーティスト 新城大地郎の作品と共に空間を構成。幼少の頃から墨と共に育った新城大地郎の墨の表現を交え、領域の異なる二者が呼応する空間を体感いただけます。
Graphpaper
2024 Spring & Summer Collection
~ Installation by Daichiro Shinjo ~
一般会期:2024年2月23日(金) - 3月17日(日)
定休日 : 水曜
場所:ギャラリー85.4
東京都渋谷区神宮前2丁目6−7 神宮前ファッションビル 1F
時間:12:00 - 19:00