かぶる人を選ばない、カジュアルなのにドレッシーな帽子の秘訣
熟練の職人による手作業で作られる「KIJIMA TAKAYUKI」の定番キャップとバケットハットをベースに、Graphpaperの定番ファブリック「Selvage Wool」を使用した別注モデルが完成。シンプルなアイテムに隠された、デザイナー木島隆幸氏のこだわりの技と哲学をディレクター南貴之が探ります。
ーーコラボレーションのきっかけは?
南貴之(以下、南):そもそも青山や日比谷のお店で「KIJIMA TAKAYUKI」の帽子を取り扱わせてもらうタイミングがあったんですよね。
木島隆幸(以下、木島):展示会をやっている会場のすぐ近くをたまたま南さんが歩いていたところ、共通の知人が発見して、せっかくだから見に来てよと展示会に引っ張り込んだのが始まりですね。そのままオーダーもつけていってよという流れになって。
南:僕の性格はご存知の通り、つけていってよと言われて、つけるようなタイプではないし、もちろん木島さんのことは存じ上げていて、若い頃は、それこそ前身のcoeur(クール)のとき、客として代官山のお店に伺ったり、セレクトショップに卸されていた帽子を普通に買ってました。その後、ご自身の名を冠した「KIJIMA TAKAYUKI」でも展示会をやっているのは知ってたんですが、僕なんかがおいそれと電話して行くような感じではないと思っていたので、本当に知り合いに強引に連れて行かれて、「いいの?やれんの?」みたいな話から始まりました。
木島:初耳でした、これはボタンの掛け違いですね。僕もアピールしましたが、一向に引っかかってくれないので、嫌われてるのかと思っていましたから。
南:いや、全然そんなことないです。そもそものコラボレーションのきっかけは、ポシャってしまった企画ですが、ある海外デザイナーとGraphpaperの別注を作ることになり、デザイナーから木島さんと帽子を作りたいというオファーがあったんです。でも、断られて傷つくのが嫌なんで、ちょっと聞くのが怖いなと思っていました(笑)。ただ彼がどうしてもって言うから、思い切ってお願いしたところ、ご快諾いただきまして。そこからちょっと調子に乗って、もしかしたら、うちの帽子も作ってもらえるんですかね?みたいな話をしたら、いいですよと言っていただき、今回のコラボレーションが実現しました。
ーー木島さんにとって、Graphpaperとはどんなブランドという認識でしたか?
木島:それはもう天下の南さんからのお話なので(笑)。僕の中でGraphpaperさんのイメージは、いいものだけど、パターンだったり、サイジングだったり、緻密なバランスで現代性や個性を表現しているブランドでした。そこはうちのブランドも共感できるというか、同じようなことをやっているように勝手に感じていたので、南さんからのオファーは絶対やりたいと思いました。
南:嬉しい話でございます。
KIJIMA TAKAYUKI for GP Selvage Wool 6 Panel Cap
ーーでは、実際にコラボレーションするにあたって、形やデザインはどのように決まったのでしょうか?
南:展示会やアトリエで木島さんの帽子は拝見していたので、キャップとハットをやりたいということをお伝えして詰めていきました。木島さんが既に作っているモデルをベースに、どこをどうしよう、こうしようと言いながら。生地はうちのサンプルを何種類か持っていき、その中で僕が一番これでやってもらいたいと思っていたのが、スーツにも使っているSelvage Woolです。そうは言っても帽子に向いてない生地もあるので、専門家である木島さんに見てもらったところ、できますよということでしたので、ではお願いしますという感じで決まりました。
木島:大まかにキャップ系、ハット系という希望をいただいたので、今だったらこういうのがいいのではないかと提案させていただきました。そこからキャップといっても、具体的なパターンの取り方やシルエットも細かく言うといろいろあるので、洋服に合わせやすい、ベストな形を南さんととことん話をしていきました。
ーー具体的なデザインのポイントなどを教えてください。
木島:例えば、キャップのツバに入れるステッチの本数を2本にしていますが、たくさん入れるとどんどんカジュアルになっていってしまいます。同じように菊穴もたくさん入れるよりも、サイドに2つだけ入れることによって、すっきりした印象に見えます。バックのアジャスターも金具は極力使わず、シンプルに面ファスナーにすることでサイズも微調整でき、ブランドネームを挟み込んで、デザインのポイントにしました。
南:ゴリゴリに芯を入れちゃうキャップも多いけど、逆にこのキャップはソフトな仕上がりなんです。
木島:ご持参いただいた生地はウール100%ですが、程よくハリ感のある生地でしたので、これなら芯地を使わずに、しっかり形が保てますし、かぶったときにも変なハリが出ず、合わせやすく、頭にも馴染みやすい。やっぱり素材がよくないとこういった表現は絶対できません。そうやって細かいところまで一つずつ確認しながら決めていきました。
南:細かいステッチや菊穴の数はどっちがいいかとか、芯は入れないほうが僕は好きだとか、ここはこう思うんですけど、どうですかと、お互いに話し合って。あとは、サイズについては、Graphpaperのコンセプトにサイズの概念をなくすというのがそもそもあるので、なるべくいろんな人がかぶれるように、定番のアイコニックなシェフパンツのような面ファスナーを取り入れたら、可愛いかなと思ったり。
木島:そうですね。バックのベルトはパンツからの引用ですね。
ーーかぶったときのバランスや見え面はどのようなイメージでしたか?
南:キャップ一つとっても、深めがあれば浅めもあって、芯入りのもの、ちょっとヒップホップの人がかぶるような形のものと、いろいろな種類があるじゃないですか。その中で、僕は深いキャップが好きじゃないんです、というのを最初に相談したような気がします。
木島:弊社にはいろんなパターンのサンプルがあるので、それを見ていただきながらその中で一番理想に近いモデルから、もうちょっと変えたい部分があればそこをアレンジしていくといった作業でしたね。
ーーもう一型の、バケットハットのデザインのポイントは?
南:自分の中では、バケットハットは結構かぶるのが難しいと思っていて。でも木島さんのバケットハットを見せてもらったら、それがカジュアルな感じではなくて、すごく可愛かったんです。
KIJIMA TAKAYUKI for GP Selvage Wool Bucket hat
ーーバケットハットというと、ストリートの印象が強いですが、木島さんが作る際の違いやこだわりは?
木島:キャップと同様に、極力シンプルにしています。バケットハットもやはり菊穴が入っているので、そういうカジュアルに転んでしまう要素を省きました。このウール地で南さんはスーツを作ってセットアップでも提案されているとお聞きしたので、スーツに合わせるのであれば、それぐらいのドレッシーさは欲しい。すごく細かいところですと、サイドクラウンのステッチの割の幅が太いと極端にカジュアルに見えるのですが、それをなるべく細く狭くすることによってドレッシーな仕上がりにしています。
どういうふうにやるのかと言うと、裏地をつけて縫い目が見えないようにすることで、割りの幅も自由に設定できます。よくカジュアルなバケットハットだとバイアステープで縫い代を処理してますが、そうすると伏せテープの幅で縫い目の幅が決まってしまいます。それが実はカジュアル感に繋がっているのです。また、トップとサイドの縫い代も片倒しにするか両倒しにするかでシルエットが実は変わってきます。パターン的には四角い感じですが、両倒しだとエッジが際立ってきてしまうので、片倒しにすることで若干丸みを帯びるような、角を取るという作業をしています。あとは芯地も使わず柔らかく仕上げ、それに合わせるようにツバにも極力柔らかい芯地を使って、丸めて持ち運んでも形崩れしにくいようにしました。
南:なるほど、深いですね。カジュアルに扱えるんだけど、かぶるとすごくドレッシーに見えるという。僕的には、生地は結構きれいだし、いわゆるスーツ地なので、それをどカジュアルにはめるという逆のフリもあったと思うんですが、そこに微妙に木島さんらしさというか、上品さみたいのなものが加わることによって、超絶カジュアルなバケットハットをちょっと格上げしてもらった感じで、すごく気に入っています。それにかぶると誰にでも似合う絶妙なバランスに仕上がっている。本来なら、意外に似合わなくてかぶるのが難しいのに。
ーー帽子が似合う、似合わないの境界線はどこにあるのでしょうか?
木島:僕が長年やってきて思うのは、ソフトに作る、柔らかく作ることが、イコール、その人に馴染んでいくことなんです。だから、帽子をかぶったことのない人やかぶり慣れてない人は、帽子を試着するとき、帽子は鏡の前で頭に乗せるだけで簡単に試着できるので、その良し悪しをジャッジするのに、おそらく1秒もかからない。かぶった瞬間に、違うと思ってしまう。でも、それを解消しないと、なかなかいいと思ってもらえないので、じゃあどうしようかと言うと、硬くてゴリゴリしたものだと違和感が出てしまいますが、柔らかいものだったら、すっとハマります。そうすると、ちょっと待ってよと、お客様に一瞬考えさせることができる。柔らかく作っているのには、そういう理由もあります。
それに購入してからも、普段、あまり帽子をかぶったことのない人が、かぶって友達に会ったりすると、今日どうしたの?と、絶対に突っ込まれるじゃないですか。できるだけ違和感がないようにしてあげないと、やっぱり気にしてしまうので。そういうことを、帽子を作るときにはイメージしています。
結局、最終的には、洋服とのマッチングだと思います。帽子がないほうがかっこいいならいらないし、帽子があったほうがかっこいいと思わせるには、違和感を消してあげる必要がある。洋服にどれだけ馴染んで、なんか今日かっこいいじゃんってならないと、その人が買った意味もありませんから。
ーーなるほど。帽子が目立つ=違和感に繋がる。それを打ち消す要素が、柔らかさによって自然に馴染むことなんですね。
木島:帽子が好きな人や普段からかぶり慣れている人は、硬かろうがかぶりこなす能力がありますが、そうでない人は、その前にやめてしまうんですよ。だから、そうならないように、最初からこのシルエットを作っておくということを意識しています。僕は、帽子が好きな人や似合う人にはもともとあまり興味がなく、帽子が似合わない、ちょっと苦手意識がある人に対して、チャレンジ精神が湧くんですよね。
南:すごくよくわかります。木島さんはもっとデザイナーさんの目線で作っていらっしゃるのだと勝手に思い込んでいて、僕とは逆のタイプだと思ってたんですけど、今のお話をうかがって、考え方は同じでした。僕もどちらかというと消費者目線で服を作っているので、どこまでいっても多分消費者にしかなれない。なんか誰も見たことがないような、とんでもないものを作って、アーティストとか有名人に着てもらいたいなんて思ったこともなくて。どちらかというと一般の人たち、それこそ服が好きな人でもいいんですが、いろいろ着てきたけど、なんか気に入らなくて、でもこれはいいな、なんて思ってくれたらいいなと。
木島:全く一緒です。
Photo by Masato Kawamura @masatokawamura_
ーー木島さんがそのような考えに至るまでには、いろいろなデザインをしてきた上でのことなんでしょうね。
南:それはハイからローまで手がけてみないとわからないというとこですよね。経験が成せる技というか。
木島:やっぱりすごく被りやすいものばかりを揃えたコレクションだと、面白みはどうしても欠けてしまうので、その中でもちょこちょことデザイン性のあるものを入れていきながら、ブランドらしさを表現したりとか、そういうことは心がけています。
ーーバケットハットやキャップのような定番モデルは変わらず作り続けながら…。
木島:実は長いスパンで考えると別に定番ではなくて、5年前だったら、猫も杓子もロングブリムハットが流行ってましたよね。やっぱり洋服の流行によって帽子も変わっているので、長い定番というのは、キャップやバケットハットであっても、その時代によって、例えば、ツバの角度、傾斜、長さが、実は変化していて。キャップも以前だと、ヒップホップ系だったら、硬いやつがいいという流れがあるので、ひとまとめにキャップが流行ってます、バケットが流行ってます、ということではなく、形は変化しながら、今はこの形だということです。
南:なるほど勉強になるわ。
木島:このボリューム感も、何年か前だったら、ちょっと浅いんじゃないかという感じですが、今はこういう気分だよねと、変わっていくので。また3年、5年後、もっと小さくなっているかもしれませんし。
南:深いですね。確かに僕なんかも気分があるから、シャツ1枚とっても、肩周りはこうとか、前立てがあったほうがいいとか、ないほうがいいとかありますが、そういうことですよね。考え方は似ています。
KIJIMA TAKAYUKI for GP Selvage Wool Bucket hat
KIJIMA TAKAYUKI for GP Selvage Wool 6 Panel Cap
ーーところで、今回の帽子はユニセックスでの展開ですが、男女問わずかぶれる最適なパターンというのはあるのでしょうか?
木島:帽子は洋服と違って、そこまでパターンが極端に変わることはなく、サイジングでどちらでもいけてしまったりします。むしろ女性がかぶるときは、ワンサイズ大きいものをかぶると、より可愛らしく見えたりします。意外にも、男性でも女性でもそうですが、帽子が似合わないと言っている方は、サイズが間違っていることがほとんどです。
南:ワンサイズ上げてみると、途端に見え方が変わったりするものなんですね。
ーー最後に、南さん的におすすめのスタイリングは?
南:全身この素材で揃えてもいいと思うし、全部でなくても普通に同素材パンツやジャケット、コートもあるので、それらをうまく自分なりにアレンジして、帽子を足してもらうことによって、さらにかっこよくなるじゃないかと思ってます。Graphpaperのスーツは、作りはテーラードの基本に則ってますが、ガチガチのスーツじゃなく、それを着てスケボーしちゃうぐらいのカジュアルさなんで、きれいなんだけど形はいわゆるストリートなキャップやバケットと合わせるというバランス感がいいと思っています。
Photo by Masato Kawamura @masatokawamura_
KIJIMA TAKAYUKI
www.kijimatakayuki.com/
デザイナー木島隆幸。1990年から1994年の5年間、帽子デザイナーの第一人者である平田暁夫氏に師事。イッセイミヤケやヨウジヤマモト、コムデギャルソンなどの帽子製作に携わり、ヨーロッパのオートモードの技術を習得。1995年に東京・代官山にアトリエを設立し、1999年、前身のブランド「coeur」直営店をオープン。2013年にブランド名を自身の名前である「KIJIMA TAKAYUKI」に改め「coeur」から独立し、メンズライン、ウィメンズラインの展開でスタート。熟練した技術を持つ職人たちが、手作業で一つ一つ丁寧に作り上げた帽子は、量産的生産方法には出来ない、柔らかく心地よい着用感を生み出す。