暑い夏もようやく過ぎて、気が早いようだけれどそろそろ冬支度の時期がやってくる。昨冬はダウンとコートで乗り切ったというディレクターの南のワードローブ同様に、今季のグラフペーパーのコレクションにもそんな冬場の主役たり得るアウターがずらりと並ぶ。最良の冬をともに過ごせる1着は、一体どれだ。
Interview & Text by Rui Konno
―この前のお話で「去年の冬はコートかダウンの2パターン」と言われてましたけど、そろそろ涼しくなってきたので今年のアウター事情を改めてうかがえたらなと。
やっぱりコートかダウンかだよ。こっちかあっちかって感じ。
―じゃあ、それを踏まえてグラフペーパーの今年のコートとダウンについて聞かせてください。まずはコートから。3型ともに素材は同じですよね?
うん。スーパー140’s(ワンフォーティーズ)っていう、細い繊維を使ったライトメルトンだね。水に溶ける糸を使ってて、染めた後の整理の工程でそれが溶けることで厚みはあるのに軽くなる、っていうやつで。
―パッと見クラシックなメルトンですけど、そんなテッキーな製法なんですね?
そうそう。いつもコートを着てて思うんだけど、良いコートの目の詰まった生地がすごく好きなんだけど、やっぱり重たいんだよね。それで、質感はいいのに軽いメルトンができないかってやり方を探して。この生地にたどり着いてからはずっと使ってます。もう何シーズンになるんだろ? だからまぁ、生地自体はうちの定番だね。
―一般的に軽いメルトンとなると薄くなりそうですけど、これは厚みもしっかりありますね。
俺が毎回そういう矛盾したようなことを言うからね(笑)。それでもやっぱり、メルトンのコートはメルトンらしくあって欲しいなっていう気持ちがあって。―こういう身幅がたっぷりしたコートだと、特に普通のメルトンは重くなりますもんね。
そうなんだよね、グラフペーパーのコートは生地の分量が特に大きいから余計にね。
―内側にストラップが付いてて背負えるようになってるんですね。
俺が暑がりだからさ。冬も(建物の)中に入ったらすごい暑いことが多くて、そういうときにめちゃくちゃ便利なのよ。デザインとしてっていうよりは、必要に駆られて付けたディテールだね。その便利さはもう自分で検証済みです。―具体的な形のお話ですけど、これが一番トラディショナルですね。
このオーバーサイズのステンカラーはずっとやってる形だね。俺は丈の長いこの感じが好きなんだけど、ショート丈がいいっていう人も結構いて、そういう人はこっちのほうがいいかも。ベースはピーコートだけど、ショールカラーで肩をドロップさせてて、バサっと羽織れる。ちょっとカーディガンっぽいコートって言えばわかりやすいのかな。普通のピーコートはいろんなディテールがあると思うけど、これはできる限りレスしてつくっていて、かなりカジュアルにしてます。- Light Melton Shawl Collar Coat / - Light Melton Oversized Coat
―逆にあとのもうひと型は、しっかりディテールを踏襲したミリタリーのスタイルですね。- Light Melton Pea Coat
うん。個人的にはこれが一番欲しかったコートで。なんか最近、オジサンくさいものがすごい好きでそういうコートをつくりたかったんだよね。今年はこれかな、俺は。
―それくらい南さんの今の気分にハマった型なんですね。
俺が欲しくてつくったからね。これは売れなくてもいいやって。みんなステンカラーとショールカラー、選ぶんだろうなって(笑)。
―(笑)。そんなこともないと思いますけど、少し毛色は変わりますよね。
ダブルのコートをボタン外して着るのが好きなんだよね。長いコートもやっぱり好きだし。「長いコートはそんなに何種類も要らないです」とか言われても、やっぱりつくっちゃう。大きくて身幅があるダブルっていう、完全に自分の趣味でやったから好きな人は好きだけど、刺さらない人にはまったく刺さらないって感じかもね。
―でも、万人にそこそこ受け入れられるよりもそっちのほうが面白いですけどね。洋服は特に。
そのぐらいがいいよね。欲しいものをつくるって、そういうことだから。これは首を守れるっていうのも気に入ってて。襟を立ててストラップを閉めて着るとまた全然違う見え方になるよ。羽織ってもいいけど、ビシッと閉めても絵になると思う。でも、俺自身は冬場によくコートを着るけど、みんなはどうなんだろうね。―やっぱりコートが着たい人は多いんじゃないですか? もっと楽なアウターもあるでしょうけど、脱いだときの所作とか、コートの様式美みたいなものがある気がします。
なるほどね。俺はこの冬もウールジャージーのセットアップにコートで決まりだなぁ。あの人毎日同じ格好だなと思われるだろうけど、もう気にならない。―(笑)。このメルトンもカラーはコレクションテーマに基づいたバリエーションですね。
そうだね。そこにベーシックな黒がずっとあるっていう感じ。海外行くときも脱いだら楽なこの格好だな。やっぱり俺は。
―じゃあ、まずそのコートが南さんの冬の1パターンだと。もうひとパターンのダウンについても聞けたらなと。これ、かなりバッフルが大きいですね。
前回の秋冬のときにダウンの製品染めっていうのをやってみたんだけど、それがすごく評判がよくて、コレクションのカラーでアップデートした感じです。-Garment Dyed Down Jacket
―そもそもですけど、ダウンで製品染めってできるものなんですか!?
いや、俺も最初驚いたんだけどね。そんなのできないでしょっていう感覚だったから。でも、それをできる工場さんがあったんですよ。やり方は教えてくれないけどね(笑)。だから詳しい仕組みは俺にもわからなくて。
―それでもやっぱり、ダウンでこの色出しは魅力的ですよね。
前にも何度か話してるんだけど、グラフペーパーではものづくりの中で洗ったらダメなものを洗ったらどうなるかっていうことをここ数年ずっと試してたんだけど、ダウンはただでさえ高いのに「着てたらすぐ綿が出てきた!」とかになっちゃうと大変なことになるから諦めかけてたの。でも、それが実際にできたっていうこともあって、個人的にもすごく気に入ってます。普通のダウンが、普通じゃないところに行き着く過程が。
―色味もそうだし、質感もちょっと特殊ですもんね。
少しだけ起毛した高密度のナイロンを使ってるんだけど、実際に見たら「この風合い、何なんだろう?」っていうような異常性を感じてもらえると思う。中綿なのかなと思われそうだけど、実際はちゃんとダウンっていうのが面白いよな、って。軽さとやわらかさもちゃんと保たれてるし。―ボリューム感なんかは王道のダウンらしさもあるから、余計にそのギャップが際立ちますよね。
クラシックなダウンのスタイルを、構造だとかつくりでミニマルにできないかなっていう発想から入ってるからね。昔っぽいつくり方はしてるけど、抜くところは抜いて、部分的にステッチを表に出さないようにしたりすることで結構モダンにできたなぁと思ってます。このグレージュとかもクラシックになりすぎなくて、意外と合わせやすいんじゃないかな。
―ダウンの量も多いですし、これはめちゃくちゃ暖かそうですね。
そうだね。それにすごく軽いよ。裾にはドローコードが入ってて絞れて、肩の落ちるすっきりとしたバランスにできたと思う。―デザインで言うと、もうひとつのダウンのほうはまた全然違うアプローチですね。
これはショートコートをダウンでつくりたいなと思ってやったやつ。まずテストで最初につくってみたんだけど、そこから何度もやり直してる。肩周りとかも全部やり直したし、ダウンの分量も部位ごとに何グラム減らして…みたいに何回も修正して。- PERTEX QUANTUM AIR Bal Collar Down Coat
―ファーストサンプルと最終形を両方拝見しましたけど、かなりバランスが変わりましたね。
最初のは結構ドカンとしたボリュームだったでしょ。このボリューム感をどう昇華させてくかっていうところは苦労しました。肩が自然に落ちないといけないけど、ボディのダウン量は減らしたくないな、とか。1回目のサンプルを全部バラして、場所ごとにちゃんと羽毛の量をグラム数で出して…っていうのを何回もやりました。
―シェルがやわらかいから、羽毛の量がもろにシルエットに影響しちゃうんですね。
そうなんだよね。今回はシェルにパーテックス(クァンタム エア)を使っててはっ水性を持たせてるんだけど、やっぱりちゃんとダウンらしさは欲しくてさ。
―はっ水性のシェルだけど、前立てはボタンスルーっていうのがグラフペーパーらしいですね。
止水ジップで中に水が入らないようにとか、そういうアウトドアの人たちがする機能性みたいな話はここでは必要ないからね。都市生活では、パーテックスで表面がはっ水するだけで十分だと思うから。そういう要素だとか構造をファッション側に寄せてみたらどうなるかっていうのは、いつも僕らがやってる実験で。このつくりだったら、普通にコートを着る感覚で使えるなと。―ダウンコートでこのシルエットは新鮮ですね。リラックス感もあって。
金持ちのおばさまの着てる長いダウンコートとかはちょっとヤバいじゃん。フードがついてるようなやつ。
―(笑)。まぁ、好みは自由だと思いますけど、コンサバと言ってしまえばそれまでですよね。このコートはボリューム感こそダウンっぽいですけど、畝が出ないのも珍しい気がします。
すっきり見えるように、あえてパックは出さないようにしました。だけどそれでボリューム感まで消しちゃうとダウンを入れる面白さがなくなっちゃうし、今回はあくまでコートとダウンの中間にしたくて。かなり暖かいから、薄手の格好にさっと羽織るだけで外に出られていいんじゃないかな。
―資料を見てたんですけど、ダウンはもう販売しているんですか?
そうだね。実際に着るタイミングからは少し早いけど、特にダウンって先物買いの人で毎年なくなっちゃうんですよ。「前回買えなかったから、今回は早めに」とかって。
―そうこうしてたら意外とすぐにアウターの出番が来そうですね。
そうなんだよね。早いもんで今年ももうすぐ終わっちゃうから、興味を持ってくれた方はぜひ、お早めに。