タフで使い勝手に優れ、何より見た目に独創的なバッグを一貫してつくり続けてきた韓国発のブランコフと、グラフペーパーとの共作が春夏に引き続き2025AWも出揃った。
ソウルに自社工場を構え、ブランコフを展開するウォン・ドクヒョンと、グラフペーパーを率いる東京拠点の南貴之。
物理的な距離も、言葉の壁も越える共通言語を持った両者のものづくりが、形になるまでのストーリー。
Interview & Text by Rui Konno
―よろしくお願いします。最初に、ウォンさんと南さんの関係値についてお話したほうがいいかな思っていて。
(通訳さんが韓国語へ)
ウォン・ドクヒョン(以下ウォン):ハイ。いいですね。
南貴之(以下南):(笑)。
―あ、まさかの日本語ですね。ありがとうございます。
南:グラフペーパーを始めて、何回目かの展示会をやるときに、「韓国のお店から『取り扱いたい』っていう連絡が来ました」とうちのスタッフから言われて。そのときは、「あぁ、そうですか」っていう感じで、正直海外に卸す気はそんなになかったんだよね。
―南さん、前にそう言われてましたもんね。それがウォンさんからのファーストコンタクトだったと?
南:うん。でも「来たい」と言ってくれたんで、「じゃあ来てよ」って伝えてもらって。そうしたらその展示会に来てくれたんだけど、日本語で手紙を書いてきてくれて、それを読んでくれてさ。
ウォン:そうでしたね(笑)。
南:俺、それに感動しちゃってさ。そこからはもうファミリーです。バッグをつくってるって聞いたから、韓国に行くときにお店を見に行ったりとか。あれよあれよと何年も付き合いが続いてるって感じ。
―そのお手紙のタイミングでは、ウォンさんはもうブランコフを始めてたんですか?
ウォン:そうですね。スタートは2011年で、お店自体は2014年からだから。僕がグラフペーパーを知って、色々考えさせられることが多くて。尊敬というか憧れというか、いろんな気持ちがあったので、手紙ではそのときの感情を伝えました。
南:本当かよ(笑)。別に尊敬されてるとか感じたことないけど。
ウォン:いやいや(笑)。グラフペーパーを初めて見たときに新しくて格好いいなと思ったし、記事で知ってからはどうしても実際の服を見たいなってずっと感じてましたし。僕は学生の頃からオタク気質だったから、とにかく色々調べたんですよ(笑)。
―ウォンさんも掘り下げていくタイプなんですね。
ウォン:そういうオタク気質を発揮して、ヴィンテージとか機能的な服とかを色々調べていく中で情報を集めていった感じです。まだまだ勉強中なことがたくさんあって、今もその過程というか。
―なるほど。そのとき初めて会った南さんは想像通りでしたか?
ウォン:あんまり事前にああだろう、こうかもなみたいなことは考えずに偏見を持たないようにしてたんですけど、思ってたよりも体が大きかったです(笑)。
南:デカいと思われてたか…。
ウォン:(笑)。でも、言葉も違うし色々不便な中でもちゃんとコミュニケーションしてくれたり、考えてくれてる部分がすごい伝わってきて嬉しかったです。自分の人生の中では家族と同じくらい重要な人だし、それは今後も変わらないです。
―すごく素敵なお話しですね。…南さんスマホいじってないで聞いてください。
南:ん? あぁ、ごめん(笑)。まぁそれでウォンが自分たちでバッグをつくってるっていうのは知ってたし、自社で工場を持ってるっていうのも聞いてたから工場にも一緒に行ったりしてね。失礼な話だけど、韓国のものづくりっていうのがどういう感じなのかが自分にとっては不透明だったのもあって。でも、ブランコフはそれを全部自分たちでコントロールしてて、ちゃんと物をつくってるんだなっていうのが知れたから、見に行って良かったなって。
―そこからすぐに一緒にやろうとなったんですか?
南:いや、俺らもまだそのときは「バッグをつくろう!」みたいなところに意識が至ってなかったから。でも、「なにか一緒にやりたいね」とは話してました。そこから時間が少し経って、去年の春夏…“炭”のコレクションのときにやってみようかとなって。俺が描いた走り書きみたいな三角形と四角形とか、そんなドローイングみたいなやつをウォンに送って、「こういうバッグ、考えられないかな?」って言ったら、彼はすごい一生懸命それを形にしてくれて。それが最初のコラボレーション。大変だったと思うよ。すごい適当な絵だったから。
ウォン:最初にそのイメージをもらったとき、まだ言葉もあんまり通じないときだったから、3つぐらいあったその絵をそれぞれバッグでつくると思ったんですよ。でも後から聞いたら、実はつくるのはひとつで良かったみたいで(笑)。
南:僕は「たとえばこんなやつとか、こんなのとか」みたいな気持ちで3つの絵を送って、どれか選んでくれたらなと思ってたんだけど、なんかウォンが3つもつくってきてくれたから(笑)、「じゃあ3つともやろう!」って。2024SS BLANKOF for Graphpaper 左から SQUARE / TRAPEZOID / TRIANGLE
―「なんかつくってきてくれたから」って(笑)。結果オーライってことですよね。
南:だってこっちはいくつもつくるなんて大変かなと思ってたからさ。でも、「3つともかわいいし、これで」って。俺のはすごい抽象的な絵だったんだけど。
ウォン:図形みたいな感じでしたけど、一応バッグの形っぽくはなってましたよ(笑)。
南:あのときはコレクションのテーマとして、書を書く人が筆で丸を描いたり三角を描いたりするのを見たことがあったから。そのインスピレーションと物を収納するっていうところが結構リンクして。最初は俺が描いたその適当な絵を、うちの企画チームがちゃんと清書してウォンに送ろうとしてたんだけど、それはやめさせて。
―それはまた、なぜ?
南:そうしたらただのOEMじゃん。ウォンが考える余地がなくなっちゃうから。こっちの出したアイデアに対して、ウォンが何を感じて、どうつくってくるのかが大事だから、「絶対に(注文を)細かくは書くな」って。
―インラインの主観でのものづくりとは、また考え方が少し違うんですね。ウェアではなくバッグというのもあるんでしょうけど。
南:グラフペーパーにおいてはバッグってどうあるべきなのかをここ数シーズンは結構考えていて。まだ結論には達してないけど、グラフペーパーは僕の極私的な考え方から始まってるから、まずはバッグについても自分が純粋に欲しいものをつくろうと思っていて。そこから、継続していける普遍性があって、今の都市生活でどういった機能があったらいいか、みたいに考えてます。僕の場合は出張も多いから、ちょっと大きめで荷物がしっかり入ることも重要なんで2種類サイズがあったほうがいいなって。BLANKOF for Graphpaper Crescent Bag "Small" / "Large"
―ウォンさんとしてはそういうコラボレーションをやっているときってどんな気持ちだったんですか?
ウォン:自分が好きなブランドとコラボレーションをして一緒にものをつくるのは学生時代からの夢だったから、すごくやりがいはありました。機能的な部分とか、自分の好みだとかを詰め込んで、それを現実にできたっていうのが嬉しかったです。
―素晴らしいんですが、そんないい話だけを聞きにきたわけじゃないんですよ。きっと大変なこともあったはずだと。
ウォン:(笑)。でも、本当にいい思い出しかなくて。いつもより工場に行く頻度が高くなって、工場の人とのつながりも強くなったし。彼らは「たくさん徹夜した」とは言ってました(笑)。
南:ごめんね(笑)。
ウォン:でも、普段からそういうことはやっぱりあるので。それがさっき話したように夢に向かってるっていう感じもしますしね。
―ウォンさん、すごく人間ができた方ですね…。そこからの流れで、今回はどんなプロダクトをつくったのか聞かせてもらえますか。
ウォン:このバッグは最初、春夏にブラックを出したんですけど、まず三日月をイメージしたんです。それで立体的にはしたいけど、できるだけシンプルにもしたいなと思って。そんなことを考えながら、グラフペーパーの服とブランコフや自分が持ってるイメージをどうやったらうまく合わせられるかを考えました。一番大事にしたのはバランスです。どんな服にもピッタリくるバッグをつくりたくて。
南:元々、斜めがけのバッグをつくりたいっていう話は前からしてて、それでウォンが出してくれたプランの中にこういう形があったんだよね。
―そんな経緯だったんですか。完成形は素材感もちょっと独特ですよね。
南:これはブランコフが開発したナイロンなんだよね。
ウォン:はい。“キム(김)”って言います。日本語だと“海苔”ですね。キムパのキム。韓国海苔のパリパリした質感、薄くて硬いあの感じをイメージしていて。ナイロン素材って光沢があるものが多いんですけど、個人的にそういう生地だとあんまり繊維の目がきれいじゃないなと感じることが多くて。それを改善したいなと思ってつくったのがこのキムです。
―マットだし、少しシボ感もありますよね。この質感は加工で表現してるんですか?
ウォン:はい。圧縮加工とはっ水加工をしていて、圧縮のときには結構圧力をかけてます。あとは、生地を織る段階で糸をもう1回、もう1回とツイストしてるので、目が細かいっていうのもありますね。
南:オリジナルのファブリックで保形性も結構あって、硬さとか雰囲気もおもしろいんだよね。それで、これを使ってつくろうみたいな話はしました。
―その表情と中綿入りのフォルム、すごく相性いいですよね。
ウォン:ありがとうございます。中綿はフォルムの維持はもちろんですけど、物を入れたときに崩れにくくなったり、クッションとして保護することも考えて入れました。元々今回だけじゃなくて、以前からつくってるヘルメットバッグでも同じ考え方でやっていたので。
南:バラバラになりがちな付属もできるだけ色を合わせてもらいたいとウォンに伝えて。ジップは止水なんだよね。
ウォン:はい。最初は普通のファスナーで考えたんですけど、ちょっとこう…足りない部分を感じて。それで、光沢のないキムの生地感にも合うし、普段の生活でも止水ジップのほうがいいなと思って。
―でも、それだけ素材にもこだわっているのに、プライスは大分リーズナブルだったのが少し意外でした。
南:そうだよね。
ウォン:それはたぶん、自分が直接動いて自分たちの工場でつくってるからですね。間の工程がないからっていうのが大きいと思います。最初に工場と契約するときに、どうやったらブランコフのものだけをつくって、年間を通して回していけるかを工場長とは結構話し合いました。「工場を止めずにつくっていけるよう、精一杯頑張ります!」って。
―それも企業努力ですね。ウォンさんが真剣にものづくりに取り組んでいるのがよくわかります。
ウォン:春夏に出したブラックのものはサンプルができたのが去年の夏だったんですけど、できあがったのが嬉しくてすぐに見せたくて。ちょうど南さんに連絡したら沖縄に行くって言ってたから、僕も沖縄までサンプルを持って行きました。
南:俺、夏休みだったのに「持って行きます!」って言うから、「じゃあ、うん」って(笑)。それで、せっかくだしその沖縄にいる間に使ってみようってことで、ひとりだけまだ世に出てないバッグを使って。でも、結局沖縄では一緒に遊んでたよね。
ウォン:移動中の車中でもみんなでお酒飲んでましたしね。車の中で泡盛飲むのは初めての体験でした。あ、運転してる人は飲んでないですよ。
―はい。よかったです(笑)。
南:「もう飲め、お前も」みたいになってたね(笑)。
―でも、言葉の壁もあったりすると思いますけど、めちゃくちゃしっかりコラボレーションしてますね。変な言い方ですけど。
南:うん。全然スムーズだよ。やっぱりウォンが俺の趣味をすごく理解してくれてるのは大きいと思う。こっちがそんなにいろんなことを言わなくても、良いものが上がってくるから。
ウォン:バッグにこういう丸みを持たせるっていうのは当初の僕にはあんまりなかった発想で。南さんからイメージを回収したときにそれをインスパイアしてくれたのが、うまくふたつのブランドのコラボレーションらしくなった一因かもしれません。僕らとしても初めての挑戦ができたから。普段ものづくりをしていて、何かが足りないなとか、もう1回つくり直そうとかってことが結構あるんですけど、今回は実際にサンプルができて「これはもう大丈夫。行けるな」と思いました。
―完成した手応えがあったんですね。ところでウォンさんは日本には結構来られてるんですか? 一度帰国して、また来週も展示会で来日ですよね?
ウォン:はい。韓国にも色々生地はあって、東大門に行けばだいたいが集まってるんです。でも、いざ自分が求めてるものとなるとなかなかなくて。それでこうやって自分たちで生地の開発からやっているんですけど、日本にはこれはどうやって使おうかなと悩むくらい、いい生地がたくさんあるから見るのが楽しみで。生地屋さんを見てるだけで一日中いられます。
―本当に生地がお好きなんですね。くだらないことを聞きますけど、海苔も好きなんですか?
南:ホントくだらないね(笑)。
ウォン:好きですよ(笑)。日本の海苔とはやっぱりまた違うし、韓国海苔でも特にご飯に合うオススメのやつがあるから、ぜひ今度それを食べて欲しいです。
南:(笑)。実は次のバッグももう進めてるんだよね。それはレザーなんだけど、今日サンプル見られるかなと思ってワクワクしてたのに。
ウォン:来週また来るときに持ってきますよ。缶に入った海苔と一緒にね(笑)。
ウォン・ドクヒョン
1985年生まれ。韓国は京畿道軍浦市、山本出身。古着やミリタリーなどに傾倒し、「機能をデザインする」という哲学のもと、2011年にブランコフを設立。2017年にはウェアブランド、ネイダースを立ち上げ、現在は2ブランドのディレクターを務めている。