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“退屈じゃない普通”を是とするグラフペーパーでは
たまに気張って羽織る一張羅よりも、当たり前に袖を通すデイリーウェアの方が大切だ。
そして、きっとその究極は下着なんじゃないだろうか。
毎日絶対に必要で、それだけに見栄えと着心地が悪ければ、
どんな服以上にストレスを感じてしまう。
だからこそ、信頼できる品質と、安心して着られる普遍的なデザインのものを! と南が一念発起したのが数年前のこと。
そこから何度もトライアンドエラーを繰り返し、ようやくできた自信作。
グラフペーパー、渾身のアンダーウェアをご紹介。

Photographer: Junpei Fukushi
Text: Rui Konno


最終的にたどり着いた
アメリカンシーアイランドコットン

アメリカンシーアイランドコットンのスライバー(糸になる前の段階)。この段階からしっとりとした光沢を持っているのがわかる。

ー今回は発売したばかりのアンダーウェアのお話です。今まで以上に生活に根ざしたワードローブですね。

南:うん。これ、やりたいって言ってから5年くらいかかっちゃったのかな? 「究極の下着をつくりたいよね」みたいなところから始まって。4社ぐらいに声をかけてプレゼンしてもらったり、生地を編んだサンプルをつくってもらったりしたんだけど、それでも全然納得がいかなくて。

ーどこが特に納得がいかなかったんですか?

南:言っちゃえばすべてだね。僕らがものをつくるときってまず素材から入るから、そこが良くないとまずダメで。最初の糸と編みが決まるまでがめちゃくちゃ大変でした。糸を選ぶ段階で、シーアイランドコットンとかの一番ハイレベルなものがいいなと思っていたんだけど、ただのシーアイランドコットンのインナーは世の中に既にあるから。そうじゃなくて、編み方とか組成とかいろんな部分で「これだ!」っていう新しいものをつくることが重要で、それが今回やっと出来たというか、世に出せるレベルになったの。

ー今までもグラフペーパーでタンクトップとかっていうものはつくられていましたけど、定番化はしてなかったですよね。やっぱりアップデートの余地を感じてたんですか?

南:毎シーズン出していくつもりでつくってはいるんだけど、 やっぱり気になるところが出てきちゃって。編んだ生地の見本を見比べながら、素材はスヴィンでやってもらったり他のコットンを使ってみたり。聞いたことのないような超長綿とかも提案してもらいました。それで最終的にたどり着いたのが、アメリカンシーアイランドコットンで。

ーあれ?海島綿の島って確か

生産担当(竹内):西インド諸島です。シーアイランドコットンって元々はアメリカでも栽培されていたそうなんです。1920年代に害虫で壊滅してしまって、100年近くの間は協会に守られながら西インド諸島だけで栽培されてたんです。

紡績されたアメリカンシーアイランドコットンの糸。

―そんな歴史があったんですね。

竹内:でも、2000年をすぎたあたりから、「もう一度アメリカでやろうよ」っていう計画が始まって再開発が進んで、この2、3年くらいでようやく日本にも供給されるようになったんです。


南:逆輸入的にね。これで生地を編むとすごく柔らかくて、ネックのバインダーも普通だったらゴワつくのに、これだと全然硬くならないんだよ。ただ、糸が決まったところで編み方が決まらないとね。


ー原料が決まったら早かったりするのかなと思うんですが、そうじゃないんですね。

南:「これじゃヤダ」、「全然違う」みたいなことの繰り返しですよ。天竺だったりスムースだったりも試してみて、 「メンズのインナーだったらフライスが一番いいよね」っていうところに落ち着いて。 実は一番最初は、いわゆるミラーみたいな編み方でシーアイランドって見たことないな、っていうことになって、あれをイメージした編み方をしてもらったんだけど。


―パネルリブのあの感じですよね。確かに、上質なやつではあんまり見ないですね。

南:そうそう。でもやってみたら糸が良すぎて膨らみが出にくいから、全然あの凹凸が出なくてダメでした。糸は絶対にこれを使うと決めてたから、アイデア自体は面白かったけど、それはやめました。

ーミラーのあの質感と凹凸はガサガサのコットンだからできたものなんですね。

南:そうだね。後は番手も違うんだよね。多分もうちょっと太い糸なんだと思う。それで、アメリカンシーアイランドコットンを使うなら結果的にフライス編みが一番いいなと。 原綿が柔らかいから、フライスの方が膨らみもちゃんと出るんだよね。

触った瞬間に「ヤバい!」と
思ってもらえるものにはなったかな


ーラインナップにはT シャツもありますけど、天竺にはしなかったんですね

南:俺、いろんなブランドの高いアンダーウェアとかもめちゃくちゃ買って試してて、もちろんその中には天竺編みのシーアイランドコットンのものもあったんだけど、天竺編みだとフィットしないんだよね。フィットし過ぎても嫌なんだけど、インナーはフィットしなさ過ぎても嫌で。特にパンツだと、天竺の場合はボクサーでもトランクスを履いてるのと同じような感じになっちゃう。それはそれで自由度が高くていいんだけど。

ー自由度…。ムレにくそうですもんね。

南:そう。でも、そもそも糸がよければそれもないし、逆にリブ編みの方が通気性は高いから。 それ以上に一番最初のタッチが大事で、天竺編みだとさらっとしたミニマルな肌触りなんだけど、このフライスだとふっくらしていて触れた瞬間に「おっ!」と思うんだよね。編みもいつもウチがお世話になってる丸胴が得意な和歌山の工場にお願いして。これはインナーだからパックTの時みたいにオーバーサイズにする必要はないから、小寸の編み機でどれくらいのものがつくれるか、みたいなところはその工場さんと一緒にトライした感じです。糸が柔らかいからテンションをかけず、できるだけ柔らかく編んでます。


ー南さんがアンダーウェアに一番求めるのはどんなことですか?

南:やっぱり肌触りかな。安いやつから高いのまで、いろんなブランドの下着を一通り試してみたけど、やっぱりいいコットンの方が気持ちいいし、長持ちするね。俺はガンガン乾燥機にかけたりで下着もガシガシ雑に扱っちゃうんだけど、 サンスペルのシーアイランドコットンのものとかは何年も保つな、とか。 

ーアンダーウェアって毎日着るものだから、気づきも出やすいんでしょうね

南:そうそう。ただ「インナーが欲しい」とは言いつつも、俺が自分で欲しかったのは実は下(パンツ)だけで。自分自身は元々中にタンクトップを着たり、Tシャツを着たりしてないから。でも年を取ってくると汗が気になってきたり、インナーが欲しくなってくるんだよね、おじさんって(笑)。何でか分からないんだけど、着てると安心できるから。それで上もつくるかっていうことになって。

ーそれで共布のTシャツとタンクトップができたワケですね。

南:うん。デザイン的な話をすると、いつものごとく基本的に一番大事にしたのはネック周り。タンクトップで言えば首が開きすぎてるやつはすごい嫌で。かと言って、開いてなさすぎても女の子のノースリーブみたいになっちゃうからギリギリのところを攻めてみました。

 


ー確かにタンクトップとしては妙な深さですよね。よく見ると。

南:これはシャツのインナーとして深すぎないっていうのがポイントで。T シャツの下に着ていただいてももちろん結構なんですけど、これ自体はシャツの下に着てもらうためにつくりました。第一ボタンを外して着た時にギリギリ覗くぐらいのバランス。シャツを着た時にまったく見えないのも素肌に羽織ってるみたいで嫌だなって。 タンクトップだけじゃなく、グラフペーパーのアンダーウェアは基本的にグラフペーパーの服の中に着てもらうためにつくってるんで。Tシャツも袖が短いのは嫌だから、長すぎず短かすぎないところを狙ってます。 


ロゴを入れるぐらいなら
パンツはつくらない



ーそのバランスにこだわった、と。

南:うん。あとは圧倒的な着心地だね。触った瞬間に「これはヤバい!」と思ってもらえるものにはなったかなと。旧式のシンカーっていう機械で編んでるから度目が詰まってないんですよ。良いインナーの基準のひとつが発散力だと思ってるんだけど、このタンクトップもTシャツも、ピタっと肌には付いてるけど中の熱とか湿気はちゃんと逃がしてくれる。それを化繊じゃないものでどうやるか、っていうのが今回のテーマのひとつだったので 、そういう意味でも成功したと思ってます。糸と編み方がマッチングしてるから着ててベタベタしないし、天然繊維でつくる上での機能はかなり備わってるかなと。すごくいいよ。パンツなんか、ラクすぎて穿いてないみたいな感じ。

ー逆にハッとしちゃいますね(笑)。

南:安心感はありつつも包まれてる感じっていうのかな。それがある。※あくまで個人の感想ですって書いておいて欲しいんですけど(笑)。 

ー(笑)。このボクサーは股下の長さもちゃんとありますね。

南:俺、短いのが嫌なんですよ。長すぎも嫌なんだけど。ボクサーのバランスは米軍のアンダーウェアが基になっていて、丈はこのくらいが良いなぁと。かつ、オーセンティックでなければならないから、あんまり特殊なことはしたくなかったっていうのもあるけどね。

ーでも、そんな中で唯一気付いてしまった特殊さですが、ボクサーパンツのフロントの開きは無いんですね。

南:無いです。あれは意味が無いと思ってるので。トイレでそこから開ける奴とは友達になれなそうな気がする(笑)。どっちかって言ったら全部脱いじゃってるやつの方が潔くて好き。「子供か!」っていう。

ーたまにいますよね(笑)。無粋な質問をしますけど、ボクサーパンツのウエストに”Graphpaper”のロゴを入れるとかっていう発想は無かったんですか?

南:ロゴ入りなんて絶対嫌だと思ってたよ。そこでブランドを主張してどうするんだよ、と思ってるし、グラフペーパーではそういうことをするぐらいならパンツはつくらないって決めていて。そういうシンプルさも含めて、いかに気持ち良くいられるかっていうのが重要で。このボクサーブリーフはウエストの生地が巻いてあるんですよ。高級なヤツでも内側がそのままゴムのものが多いんだけど、バンドが痛くて肌に触れる部分がそれじゃダメだと思うから。

ロゴは内側のワンポイントのみ。ゴムを生地で覆うことで肌当たりの良さとミニマルなたたずまいを表現。

タンクトップ・Tシャツも同様に、プリントはネック内側のワンポイントのみ

―確かに。ウェストは外側よりも内側に違いが出てますね。

南:そもそもアンダーウェアだから服を着ている時に見える前提でつくることはないからね。自分だけの楽しみであってほしいな、って(笑)。さっと朝穿いた時に「お!」って思えるように。生地が他とは全然違うから、やっぱりこれだな、ってなると思う。俺は今までのパンツを全部捨てて、下着はこれだけにしようと思ってます。

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