一説では、人間の認識できる色は750万にものぼると言われている。白が200種あるかどうかは知らないが、グレーという色もまた、時として一言では言い表せないほどに多彩な色相を覗かせる。“SHADES OF GRAY”をテーマに、そんな灰色の濃淡で描いたグラフペーパーの秋冬コレクションを、ヨークが再解釈したコラボレーションによるコレクションが完成した。それぞれのブランドを指揮する南貴之と寺田典夫が語る、カインド・オブ・グレー。
「俺からしたら、お題出して大喜利やってるみたいな」(南)
―グラフペーパーとヨークでの服作りはこれで第何弾ですか?
南貴之(以下南):何回目だ? けっこうやってるよね。
寺田典夫(以下寺田):そうですね。グラフペーパーとは2022年に一緒にやらせていただいて、そこからは年に一回。実はそれ以前にも別注とかはあるんですけど…
南:今のスタイルになったのは2022の春夏か。
―現在は別注というより協業・共作という感じのコラボレーションになっていますもんね。毎回、どういうふうに形にしていってるんですか?
南:グラフペーパーって、毎回シーズンテーマがあるわけじゃない? それに基づいて、再構築してもらおうっていうのが基本。だから俺からしたら、お題出して大喜利やってるみたいな感じ。
寺田:(笑)。ヨークも毎シーズン違うアーティストをテーマにしてつくってるんですけど、このコラボでは、グラフペーパーさんのシーズンテーマを僕らが解釈して出すっていうやり方ですね。
南:これが俺らは一番楽なやり方。うちの生産チームはすごい喜ぶ。寺田くんたちだけすごい地獄っていう。
寺田:(笑)。
―それで言うと、今回はグラフペーパーの24年秋冬の“SHADES OF GRAY”っていうテーマに基づくわけですね。
南:そうそう。
寺田:この秋冬は、自分的にもグレーとかチャコールを積極的にコレクションに入れていたタイミングで。それで、グラフペーパーのコレクションを見せていただいたときにすごくきれいなグレーの並び方をしていたんで、これはすぐに良いものがつくれそう…と言うか、自分の中に落とし込みやすそうだなと。(“SHADES OF GRAY”のインスピレーション源になった)アラン・チャールトンのことも調べたりしているうちに、パッとアイデアが出てきました。今回はスムーズにできたなと思ってます。
―邪推しちゃうと、過去では苦しんだことがあったんだなぁ…とも考えてしまいます。
南:毎回そうじゃん?(笑)。
寺田:毎回割と難しいです(笑)。いつもはけっこう難航してましたね。
―このコラボシリーズで寺田さんが悩まれるときは、どんな部分が壁になるんですか?
寺田:そうですね…。うーん…。
南:いいよ、遠慮せずに言っちゃいなよ。
寺田:でも、今季で言えばグラフペーパーのグレーに対する考え方とか、それを例えば陰影の方に持っていくとか、そういう掘り下げ方で、パッと見の洋服では伝わらない部分がたくさん詰め込まれてるはずなんです。ヨークの場合はそこが色彩の感じや柄の雰囲気だとか、もう少しキャッチーな伝え方が多くて。だけど、今回はグラフペーパーらしいミニマルで上質な服に、少しずつ匂いを入れていくというか、テーマ性をやりすぎずに大人っぽく、しっとりと入れられたかなと思っていて。それが今回はやりやすかったんですよね。
―…寺田さんの物言いにすごく配慮と品格を感じますね。
南:そんなに言葉選ばなくていいから(笑)。とんでもないこと言ってもちゃんと記事にはまとめてくれるから。
寺田:(笑)。でも、最初の絵からの変更はこれまでで一番多かったかもしれません。グレーの色彩を一着に落とし込もうとしたときに、ランダムに入れすぎてそれがいまいちハマらなかったり。コレクションのテーマは伝わっても実際に着られないものをつくっても意味がないよなっていうところで、だいぶグラフペーパーチームにも相談しました。
―いいですね。そういうお話し、もっとください。
寺田:(笑)。グレーのクレイジーパターンみたいなコートをつくったりしたんですけど、ファーストサンプルを上げてみたら、「これは着れないな…」みたいな。全部違う素材で、違うグレーのトーンを組み合わせたんですけど。何かちょっとよくわからないものができたぞ、と。
南:(笑)。
寺田:最終的に完成したバルカラーコートは、パッと見は無地のチャコールグレーなんですけど、実は5種類のグレーの生地を使っていて。ニュアンスのグレーを入れていくかを考えて、前を開いたり、着て動いたりしないとそのグレーが出てこないぐらい、こっそり落とし込んでいたりとか。あとは単体の服だけじゃなく、今回の全部のアイテムが並んだときにもグレーの階調が濃・中・淡で出るようにっていうのも意識しました。
- YOKE for Graphpaper BIG COAT
南:優秀だなぁ。
寺田:ありがとうございます(笑)。
南:もう俺の代わりにやってもらいたい。
寺田:でも、最初はすごくわかりやすくしすぎちゃって。クレイジーパターンのモヘアニットも、最初はもっと激しいグレーのコントラストだったんですよ。それもできるだけ馴染むようにして。主張しないけど、パーツごとに違う4種類のグレーになってます。トーンは変えつつ、ちゃんと着やすいバランスにできたなと。これはサンプルでサイズがちょっとコンパクトなんですけど、量産はグラフペーパーサイズで大きめに修正してます。
―事前に拝見した絵型だと、もっとくっきりグレーが分かれてましたよね。
寺田:そうなんです。最初にシミュレーションで画像上でつくってみた時はいけるかもな、と思ったんですけど、実際つくると全然イメージと違って。あれ!? って。
―グレーってなかなか主役になることが少なそうな色ですけど、それを中心に考えていくっていうのは難しくも新鮮ですね。
寺田:ですよね。普段脇役だったものをメインにするというか。コレクションとしてもめちゃくちゃおもしろいなと思いました。
―最初にできたのはどのアイテムだったんですか?
寺田:デニムです。これだけ、唯一グラフペーパーさんの生地を使わせてもらっているので、それで最初にできあがりました。それで、うちが定番でやってるカットオフで少しオーバーサイズのトラッカージャケットと、スリータックで立体的にしたワイドパンツをつくっていて。生地をもらったときから、これとこれをつくりたいな…みたいなことを考えてました。
南:これはけっこういい生地で、ずっと色落ちしないっていうデニムなんだよね。つくり方が変わってて、グレーの杢の撚糸で織ってて、シンプルに見えてけっこう異常な生地っていう。何か、コンクリートみたいなデニムをつくりたいなと思ってて、どうやったらあんな質感にできるかなって色々試したんだけど、やっぱり杢でつくるしかないなと。個人的にもすごく気に入ってる。
寺田:確かに見たことないですね…、杢糸を使ったデニムって。何で無かったんだろうっていうくらい。
―このデニム地に関して、寺田さんは今回扱ってみてはじめて個性を認識されたんですか?
寺田:そうですね。見たことない色味のグレーだなって。それで杢糸を撚ってるって聞いて、絶対使いたいなと。
―このコラボシリーズでは毎回グラフペーパーの生地を使う型がいくつかありますよね?
南:そうだね。今回はデニムがそれ。最初にコラボレーションをするっていう話になったとき、ただ普通に「ヨークの服をこうしたい、ああしたい」とかってやってもおもしろくないよねって話していて。そもそも余計なお世話だし。それよりも、本当にどうやって合体させるかって考えたんだけど、俺らは普段、けっこう生地から作るんだけど、俺の中ではその時点で7割くらい、デザインは終わってると思ってて。だから、コレクションのテーマを一番反映した生地を使って、ヨークで形にしたらおもしろいかもね、みたいな話しをしたんだよね。それで、例えばニットとかのヨークが得意な領域はそっちでやってもらった方がいいかもね、とか。
寺田:そうでしたね。
南:そんな感じでスタートしたんだけど、今はもう丸投げ。
寺田:いやいや、そんなことないですよ(笑)。でも、もうテーマとか意図が何となく伝わってきたら、あとはどういうふうにしようかな? くらいですね、今は。生地で言うと、つくった生地って多少余ったりすることがどのブランドでも絶対あって、それを無駄にせず使えるっていうのがやってて気持ちいいというか。誰も損しないというか、誰にとっても悪いことがないっていうのがすごく腑に落ちて、最初に取り組みを始めるときにやりたいなと思ったんです。
南:あとは今回のコートで言うとヌバックがあるよね。
寺田:はい。うちで定番でやってるカーコートの形なんですけど、今まではずっと表革でやってきていて。だけどアラン・チャールトンの作風を見ていて、しっとりしたグレーというか、光沢はそんなに求めてない、でも品はあるグレーだなと思ったんです。表革より落ち着いてて、でもスエードほど荒くないみたいな。それでヌバックにしようと。これもオリジナルで染めてるんですけど。元々資料でいただいたインスピレーション源の作品の中の一番濃い所をイメージした感じです。今回の型で言うと、これが一番濃いグレーで、ロングコートはもう少し薄めのグレーっていう階調です。
―あと、絵形を拝見した限りだと、さっきのものとは別にボーダー柄のニットもありましたよね?
寺田:そうですね。これもウチがずっとやってきてるキッドモヘアを使ってボーダーというか、グラデーションにしています。これは6色使っていて、いつもは境目をぼかすんですけど、今回はパキッと切り替わって欲しかったので、薄いライトグレーのラインを入れて、切り替わっていくようにしました。
YOKE for Graphpaper BRUSHED MOHAIR BORDER SWEATER
ボーターの境目のディテール
南:やっぱりヨークってニットを求めるお客さんが多いよね。
寺田:そうですね。何でですかね?(笑) でも、最初のシーズンから力を入れてはいたので、そこからブランドの顔になっていたのかなっていう気はします。このボーダーは古着の毛が束になったような感じを表現したくて、毛足を先に掻いてから洗いをかけるっていう、あえて通常とは逆の順番で加工を入れてます。
―なるほど。…しかし、これだけグレーのバリエーションが並ぶと圧巻ですね。やっぱり奥深い色だなと。
YOKE for Graphpaper グレーのバリエーション
寺田:はい。特にニットは絶妙にズレた色を探すのが大変でした。
南:このコラボは毎回そんなことばっかりやってるもんね。周りの人からしたら何が違うんだ? っていうようなことばっかり。
寺田:ずっと見てると、何か違和感があるぞ…? ってなってきて。ちょっとの色のズレだけで急に嫌な印象になるんですよ。で、どんどんヤバいゾーンに入っていきます。
南:わかるわかる。
―深く聞いてみると、今回も決してスムーズとは言い難そうですね(笑)。
寺田:ニットは3回くらいつくり直していて、これで4回目です。色の差がありすぎるとやっぱり着れないな…の繰り返しで。
南:そんなにやってくれてたの!? もちろん適当にやってるなんて思ってなかったけど、ここまで頑張ってくれてたとは。
寺田:だって、しょうもないのは出せないっすよ。一緒にやらせてもらう以上は。
南:何だか申し訳なくなってきた。…今度、ご飯奢るね。
寺田:ありがとうございます(笑)。
Text:Rui Konno
発売日
2024年12月14日(土) 12:00~
※店頭・WEB STORE同時発売
YOKE for Graphpaper
WEB STORE取扱商品一覧
寺田典夫
1983年生まれ、千葉県出身。文化服装学院を卒業後、数社で生産や企画に携わり、その後独立。2018年秋冬シーズンに自身のブランド、ヨークのコレクションを発表。先ごろ、初の旗艦店を東京・北青山にオープンした。