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春夏の立ち上げに先駆けて、グラフペーパーで始まる新しいシューズのコレクション。ディレクターの南貴之とともにアイデアを出し合って、制作を一手に担うのはフット・ザ・コーチャーやビューティフル・シューズを率いる竹ヶ原敏之介さんです。長い付き合いのふたりが初めての協業へと踏み切った経緯と、そのプロダクトに込められた想いやエピソードについて、普段の調子のままで振り返ります。

Interview & Text_Rui Konno

―南さんがアルファPRとして竹ヶ原さんのフット・ザ・コーチャーやビューティフル・シューズのPRに携わられていたのは以前から知っていましたけど、おふたりでの対談というのは新鮮ですね。

竹ヶ原敏之介(以下竹ヶ原):そうだね。確かに初めてだよね。

南貴之(以下南):揃って出るのは初めてだね。知り合ってかなり経つけど。

竹ヶ原:南くんのことはカンナビスのときから知っていて、でも初めてちゃんと話したのはグラフペーパーの立ち上げの頃だったかな。

南:そうだね。これまでにも、「何か一緒につくれたら」みたいな話はしてたんだけど、バタバタしてるうちに流れちゃったりして。

竹ヶ原:無理にやる必要もないから、タイミングが来たらそのときは…っていう感じで。

―それがこのタイミングだったんですね。

南:俺がグラフペーパーで定番の革靴をつくりたいとずっと思ってたのよ。それで竹ヶ原くんに色々と相談したら、「こうやったらできるんじゃない?」と言ってくれて。

竹ヶ原:その話を聞いたときシンプルにやってみたいって思って。グラフペーパーではずっとルックの撮影でうちの靴を使ってくれてるっていうのは聞いてて、服との相性はいいのかなと思ってた。逆に、真逆のコンセプトのオファーをいただいた場合とかはやっぱり難しいときはあるんだよね、、、。

南:それは「あそこもここも、全部変えろ!」みたいなオファーってこと?

竹ヶ原:履き心地を無視してたり、すごく抽象的なデザインだったり。前に、渡されたデザイン画がだまし絵みたいになってて、「物理的に再現できません」みたいなこともあった。だから内容を聞くまではいつもハラハラしてることが多いんだ...。

―エッシャーの絵みたいなことですね。

竹ヶ原:そんな感じ。今回のオファーはそういうのではないからやりやすかったよ。

南:そもそもが“ベーシックでずっと続けていけるようなものをつくりたい”っていう相談だったからね。

―このサービスシューズなんかはまさにそういう普遍的なたたずまいですよね。

南:俺は自分で履く革靴がほとんどこういう感じだからね。そればっかりしか持ってなくて、あとはちょっとローファーがあるぐらい。ドレスすぎなくて、バランスもとりやすい気がして結果的にそうなった。ボリュームのある足元が多いから、アッパーデザインも外羽根のこういうものがしっくり来るのかも。
竹ヶ原:素材の面でいうと今回アッパーに使用してる革は、原皮を選ぶところから指示してつくってる。色味には特に注意していて、黒色は青みに振れないように上からさらに赤色を入れたりとか。あとはライニングの色を通常流通しているものよりも薄い色味に設定してたり。

―確かに、竹ヶ原さんの靴のライニングは白に近いですね。普通はヌメ革っぽいものが多いですけど。

竹ヶ原:そう、それがちょっと野暮ったく感じるときがあって。もっと洗練された感じにしたくて。あと今回のアッパーレザーは履いていくうちに味が出るようなものを選んだ。少し無機質っぽくもあるけど、上から天然のテクスチャーを打って再現してるから革の温かみも感じるもの。革はそこまで手を入れてやらないと、完成しても表情のないものになってしまうんだよね。

南:うんうん。

竹ヶ原:あとはこのやわらかく大きく出る履きジワかな。 これも大事なポイントで、革を制作する途中で特殊な技術が必要なんだ。
―それは原皮の部位の採り方とかで変わるんですか?

竹ヶ原:もちろん部位もあるけど、鞣しの行程で革の繊維の間に充填させる成分だったり。その行程を抜かすと履くにつれて妙なシワが出て安っぽくなったりする。南くんのつくる洋服を見てるとそういう似たようなこだわりを散りばめてる感じがするよね。

南:一見表には出ないけど、最終的にはそれが現れるようなことだよね。

竹ヶ原:そう。長い時間をかけて滲み出てくるようなものの良さ。特に今回のような靴はアッパーデザインがシンプルな分、素材や木型の良さがハイライトになるから、そこに力を入れてあげたいと思ったんだよね。

―服がミニマルになるほど生地の重要性が強まるのと似ていますね。

竹ヶ原:まさにそう。

南:これ、羽根が袋縫いみたいになってるんだよね。
竹ヶ原:そうそう。実はこの仕様はパターン調整が難しいうえに縫製の手間もかかるから、量産にはあまり向かないんだよね。でもあえてこれを提案したのは、全体は既視感があるフォルムだけど、ディテールは手間暇をかけているっていうのがグラフペーパーっぽいかなと思って。

―これ、ヒール部分がインラインはレザーソールだったところがダイナイトソールになったと聞きました。やっぱり履き心地は違うんですか?
竹ヶ原:やっぱりレザーとゴムのヒールとでは全然履き心地は違う。特にダイナイトは他のソールメーカーに比べて硬度が高いので、対摩耗性が優れているうえに歩いたときにいい音がするところが気に入ってる。

南:最初は俺も「ソールは全部革でどう?」って言ったんだけど、「それだと定番すぎるし、レザーのヒールは滑りやすいし削れるよ」って言われて。そっかぁ…なんて思ってたら、そこだけ変えてきた。

竹ヶ原:(笑)。普通ダイナイトはオールソールで使うけど、しなやかなレザーを前方に、ヒールだけはダイナイトっていうのは理にかなっているし贅沢な仕様だと思ったんだよね。

―あ、南さんはサンプルが上がってきて初めてこの仕様を知ったんですね?

南:そうだよ。「なるほどな〜」っつって(笑)。逆にほとんど見たことがないから新しいなって。全部ダイナイトだと、俺からするとちょっと野暮ったい感じがするんだけど。

竹ヶ原:そう、それはもう溢れているから。普段からそういうことをずっと考えてて。車を運転しているときとかでも、「あの靴、なにかひとつスペシャルな要素を入れたいな。なにかないかな…」とかって。

南:でも、逆にこういう定番的なもののほうが難しいよね。

竹ヶ原:うん。あとこういった靴がグラフペーパーからリリースされることに意味があると思ってて。シンプルな形状にブランドの意志がしっかりと乗っかるみたいな。カラーやネームを変えるだけのよく見るコラボだとそのあたりの矜持はあまり感じ取れないような気がするんだよね。

南:そうだよね。本当に。やっぱり現場というか、自分でものづくりをやってる人だなって、なんか感心しちゃったよ。

竹ヶ原:(笑)。でもこういうのは感じ取れる人だけが気づいてくれればそれでいいと思ってるんだ。聞かれたから答えるけどやっぱりそれを自ら声高に言うのも野暮だし無粋じゃない?

―靴が好きな人なら、例え詳しくなくても「どこかが普通の靴と違うよな…?」となりそうですよね。

南:俺からは、こういう靴ができたらいいなっていうイメージを伝えるだけだから。自分の好みは竹ヶ原くんが阿吽でわかってくれてるし、俺がディテールどうこうって言わなくても、もっと細かくこだわってくるからさ。

竹ヶ原:プライベートでの付き合いもあるから、聴いてる音楽とか好きなものの傾向とかだいたい分かるよね。それでそのあたりの感覚がばちっとはまって、ひとりでは想像出来ないものに仕上がったときは本当に震えるものがあるよね。この瞬間のために生きてるって思えるくらい。

―それが協業の醍醐味だと。今回はウィメンズもあるんですよね?
南:このスリップオンがそうだね。これも定番として今後もやっていくつもり。いつもグラフペーパーのルックでもウィメンズでビューティフル・シューズの靴を履かせてもらったりしてたんだけど、よくレディースのスタッフと話してたんだよね。「一番汎用性のある靴ってなんなんだろう?」って。それがこのスリップオンだったの。それを竹ヶ原くんに話したんだけど、「春夏だし、せっかくならかかとを潰せるようにしたら?」って提案してくれて。

竹ヶ原:実は踵を踏むこの仕様はインラインでやろうとしてて。実際にサンプルまでつくってたんだけど、靴ブランドがそれをやるのは違うかなと思ってリリースしなかったんだ。やっぱり自分のブランドから提案する靴は、ちゃんと踵にカウンターが入ってて安定している仕様じゃないとダメだと思って。だから、そのモデルを成就させたかったのもあった。

南:構想自体はもともとあったってことだよね。俺も春夏だし、そういうふうに両方の使い方ができたほうが絶対にいいと思ったから、「それいいね!」って。

―発想としては面白くても、自分たちの生業としてあえて見送るっていうことは、これに限らずあるんですか?

竹ヶ原:うん、たまにあるかな。色々やってみたいっていう気持ちは強いけど、それを靴ブランドとして制限してる部分は確かにある。だからこそ、それを今回みたいにアパレルの文脈で表現できるのは単純にうれしい。

―ある種のデトックスですね。

南:うちの女の子たちもそれを聞いて「いいですね!」って反応で。やっぱり女子の靴の良し悪しを根本的に自分が理解してるとは思えないからさ。

竹ヶ原:そういえば、南くんから今回のロゴデータをもらったじゃない?そのとき気づいたんだけど、その上下の中心が微妙にずれてて真芯じゃないんだよね。色々試してるうちにそれがわざとだなって結論にうちらのなかでなって。

南:あぁ、それね。

―え? どういうことですか?

竹ヶ原:このインソールに刻印してるロゴのこと。ふたつのブランドのロゴが入ったデータを用意してもらったんだけど、普通はそれがセンター揃えになるところが、南くんからもらったデータはそうなってなくて、わずかに1ミリくらい上にずらしてあった。だけど一度自分たちで直して置いてみたらなんとなく納まりが悪くて。結局もらったままのバランスが一番良くて、それで「お! さすが」ってうちのスタッフとなって。

南:その辺は渡す前に絶対俺がチェックしてるからね。逆に「ちゃんと真ん中揃えてる?」って気持ち悪いぐらいスタッフに聞くこともあるし。今回のはインソールに入ったら見るとき縦になるじゃない? そのときにセンター揃えだとすごい気持ち悪く感じて、データを直したんだよね。

竹ヶ原:やっぱり。あんまりこの半敷や箔押しの部分ってこだわらないところが多いんだよね。昔からあるようなブランドでも。温度や圧力とかの管理がけっこう大変だからかな。この革も刻印がきれいに入るようにあえて開発したんだ。

南:竹ヶ原くんの靴はめちゃくちゃ綺麗だね。

竹ヶ原:ほんと職人さんたちのおかげなんだよね。開発に付き合ってくれた革屋さんや刻印型にも細工が必要で、金版屋さんが何度も試作してくれた。あとは実際に押してくれる箔押し屋さん。靴専門じゃないところなんだけど、うちはここにしか任せられない。

南:革製品だけじゃないってことだ?

竹ヶ原:うん。もちろん靴の中敷を専門でやってる箔押し屋さんはあるんだけど、なんか雑で。でもその人はひとつひとつ丁寧に、武士の一太刀のように押すんだよね。靴に中敷を貼るのはほぼ最後の行程なんだけど、そこのクオリティが低いと全体が締まらないんだ。

南:深いなぁ(笑)。確かにグラフペーパーのフォントでこの小さいサイズ、こんなの普通は出せないからね。

竹ヶ原:日本の職人さんは本当に技術力がすごくて。そういった職人さんたちと一緒になにかを完成させることも喜びのひとつなんだけどね。

―言われてみれば確かに。…あとは、今回の3型の中でこのサンダルだけがシーズナルモデルなんですよね。

竹ヶ原:そう。これは今期のグラフペーパーに合いそうと思って、こちらから提案したモデル。素材はインラインのものからちょっとやわらかいものに変えて。

南:このアッパーの部分はうちのシェフパンツのウエストのデザインと近かったりして。「こういうディテールあるからどう?」、「いいね、それ」って感じに。うちの太いパンツに合わせるなら、裾を絞ったところにボリュームのあるサンダルを合わせるみたいなイメージがあったから、俺ももともとこういうものをつくりたかったんだよね。

竹ヶ原:靴をつくるときって上物を想像しながらデザインすることが多いんだけど、これはグラフペーパーのようなボリュームのある服が似合うだろうなと思って。インラインには付いてないグラフペーパーのピスネームも、あるとやっぱり締まるよね。
南:ベースが完成されてたから、俺はほぼやることなかったっていうのもあるんだけどね。

竹ヶ原:なんなら「ピスネーム付けたら?」ってこっちから言ったような(笑)。

―それが本来の協業ですよね。トピック性ありきのコラボレーションとは完全に別物で。

南:竹ヶ原くんから実際にサンプルが上がってきて、もう何も注文がないんだよね。うるさく言わずとも、痒いところまで手が届くような仕様で持ってきて、それを本人がプレゼンしてくれる。こっちはもう、「え!? そんなとこまで考えてくれてんの!?」って感動してるよ。

竹ヶ原:でも楽しいじゃない、単純にこういうのって。リスペクトがあるからつくりたいしさ。打ち合わせなんていつも5分くらいで終わって、あとはずっと世間話してるよね。だいたい僕のコラボレーションスタイルはそんな感じです。

南:それで、「こうなるかな?」とこっちが思ってたものをさらに越えてくるからね、毎回。だから絶大な信頼があって、俺は本当に楽させてもらってます(笑)。

竹ヶ原:世間話の中でもワードやコードを拾うようにしているからね(笑)。やっぱりなにかものを生み出す特別な時間だからさ、ミーティングでもテンション上げていきたいっていうのはあるよね。できれば靴を通して、エンドユーザーだけじゃなくて携わるひとにも喜びを感じてほしいって思ってるから。

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竹ヶ原敏之介

オーセンティック シューアンドコー代表。美大在学中に独学で靴づくりを始め、渡英しトリッカーズのファクトリーでシューズデザインを学ぶ。帰国後は自身のブランドのみならず、さまざまなブランドの靴に携わるようになる。現在はスタイルや想定する着用者が異なるフット・ザ・コーチャー、ビューティフル・シューズ、Marbot、PPACO と4つのシューズブランドを展開する。

 

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